へっつい幽霊(へっついゆうれい)

道具屋にあるへっついから幽霊が出るので、誰が買っても必ず「引き取ってくれ」と返しに来る。夜中にへっついからやせた男が現れて金を出せとおどかすという。長屋に住む熊という男が道具屋から三両つけてこのへっついをもらった。熊は勘当されている遊び好きの若旦那と二人でへっついを家へ運ぶ途中、落としてかどを欠いてしまった。ところがそこから三百両出てきたので、二人は山分けし、熊はバクチで、若旦那は吉原で一夜のうちにすっかり使い果たしてしまった。家に帰った若旦那が床についてまもなくへっついから幽霊が出て若旦那のそばに現れた。若旦那の悲鳴で熊が飛び込んできて、幽霊に聞いてみると、この幽霊はもとは左官で留といい大のバクチ好きで大当たりをとって三百両をこのへっついの中へかくし、喜んでふフグを食ったらこれに当たって死んでしまったのだという。三百両返してくれというので、若旦那の家へ行っておふくろに訳を話して三百両を都合し、幽霊に百五十両、自分が百五十両と山分けにした。ところがたがいにバクチ好きなので、お開帳に及んで熊が勝ち、幽霊はスッテンテンになる。幽霊がもういっぺんやろうというので、「口ばりはよそう。銭がありゃいくらでもやる」「銭がなくってもわたしは幽霊です。決して足は出しません」

解説
上方種で、明治末期に東京へ移されたといわれる。三代目三木助、六代目円生は前記のサゲを使っているが本来のサゲは幽霊が負けてしまい、翌晩また熊が仲間とバクチをやっているところへ幽霊が顔を出したので「まだ金に未練があるのか」「せめてテラ(寺)がほしい」−とテラ銭と寺をかけたものだった。原話は安永二年江戸版「今歳花時」に載っている「幽霊」

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