70年代


イタリアの好景気にも翳りが見えてきたこの時代は、不安と混乱と暴力の時代と言われるように様々な社会問題が噴出してきたのです。
それは2度わたる石油危機による経済不況とともに労働問題、反体制的な学生運動、インフレ右翼左翼の確執、マフィア闘争のテロなど頻繁に起きてきたということであれほど活気のあった各地の音楽祭もしだいに消滅しサンレモ音楽祭だけが、なんとか生き延びましたが、外国人歌手の出場枠を狭めたり、72年からはダブル・キャスト方式をやめたりと、苦難の時代を迎えました。
けれども77年に、これまで会場だったオペラ・デル・カジノ劇場が改装され,それを期にアリストン劇場に会場を移しました。ここは、収容人員が3倍の2000人もあり、新発足の心意気に相応しい場所だったのですがもはや落ち目になったサンレモの曲は大きな話題にはならないようでした。

そして,低迷していたとは言えこの時代のイタリア音楽界には、2つの流れがありました。

★1つは、暗い現実から逃避するような明るい、軽めの歌です。
この代表はリッキ・エ・ポーヴェリ.彼らの”ケ・サラ”は、いつ聞いても楽しいし・・・
又75年に登場したジェノヴァの五人組、マティア・バザール、は’78にサンレモで優勝,彼等は時代と共に曲風が変わり(メローディアスかつテクノ・ポップ風など)中心的歌姫もアントネッラ・ルッジェーロから、ラウラ・ヴァレンテ(現マンゴ夫人)へ、そして3代目のシルヴィアメッザノッテへと変わった今も以前と同様の実力と人気を保ち、今年(’01)のサンレモでは3位に入賞しました。

★2つ目はカンタウトーレ(いわゆるシンガー・ソング・ライター)の登場です。
彼等は、現実を見つめて、自分自身の感性(心)を自分の言葉で詩のように語り、歌いました。
そこに描かれるのは、愛にしても、もはや甘い絵空事からほど遠い、悩み、苦しみ、希望であり、人生の様々な問題であり、政治批判,反体制的な社会へのメッセージであり・・・・今までの、甘くきれいな,いわゆるカンツォーネとは一線を画すようになりました。
★中でも第一人者のルーチョ・バティスティはイタリアの音楽界に非常に大きな功績を残しました。
彼は社会的メッセージよりも情感あふれる心象風景を歌い、(初めはモゴルの詞,’75から自分の詞)カンタジーロで優勝して有名になり、人々の深い共感と支持を得たのです。
彼の数々の功績のうちの最たるものは自分のレーベルであるヌーメロ・ウーノを作り無名でも有能な若者達の資質を見抜いて,彼等のバンドを育てた事でしょう。
それはプログレッシヴ・バンド(日本で言うプログレ)の,PFM(プレミアータ・フォルネリ−アマルコーニフォルムラ・トゥレ(ここから生じたイル・ヴォーロ)などでイタリアならではのシンフォニック・ロック界に与えた影響の大きさは計り知れないものがあります。
又、エウジェニオ・フィナルディもスタートはヌーメロ・ウーノから・・・等々・・・
70年代以降のイタリア音楽はルーチョ・バティスティ抜きには語れないと言っても過言ではないでしょう。
そして聴けば聴くほど心に沁みる彼の繊細なシャガレ声も,残念な事にもう2度と新しい曲を歌うことはないのです。何故なら彼は98年、9月8日に癌で世を去り(享年55歳),イタリアはこの偉大な国民的歌手を失ったことを深く,深く悲しみました。

他の70年代の主なカンタウトーレとグループ(多数が現在も活躍中)
クラウディオ・バリオーニ、アンナ・オクサ、バンコ、フランチェスコ・デ・グレゴリ、アンジェロ・ブランドゥアルディ、フランコ・バッティアート,ルーチョ・ダッラ、ジャンナ・ナンニーニ、レ・オルメ、ロベルト・ベッキオーニ、レナート・ゼロ、ピーノ・ダニエレ、リッカルド・コチャンテ、エウジェニオ・フィナルディ、エドアルド・ベンナート,アントネッロ・ヴェンディッティ、

ファブリツィオ・デ・アンドゥレ(この偉大な歌手も99年、1月10日に他界したのでイタリアは
2年続けて20世紀の至宝を失いました。)

★蛇足としてジェヴァについて一言
ここはイタリア随一の港湾として常に活発に外国の新しい文物を受け入れてきた伸びやか,且つ刺激的な土地柄です。
それ故か、60年代からイタリア音楽界に大きな影響力を与えてきた有名な音楽活動を総称する
ジェノヴァ派La Scuola Genovese)と呼ばれるムーヴメンがト芽生えて来るのです。 彼等はいわゆる、カンツォーネと総称されるこれまでの甘ったるい歌と決別しカンタウトーレ、カンタウトリーチェを生み育て現在のイタリア音楽の礎を築きました。
そのジェノヴァ派の中心人物達はファブリツィオ・デ・アンドレ、ジーノ・パオリ、ルイジ・テンコ、ブルーノ・ラウズィ、ウンベルト・ビンディなどです・・・
先ず、最も有名なのは、ペッリ生まれのファブリツィオ・デ・アンドゥレ
彼はフランスのシャンソンのジョルジュ・ブラッサンスなどに近く、庶民の日常生活や戦争を語り、娼婦のエピソードを詩的に歌った”La Canzone di Marinella(マリネッラの歌)で有名になりました、その後も地中海的な世界や、民俗音楽など様々なジャンルを研究し生涯、不動の名声を保ちつつ、サルデーニャでの静かな暮らしを好みました。
歌手のドリ・ゲッツイを母に持つ息子のクリスティアーノ・デ・アンドレは親の七光りを超えた実力で頭角を現し、娘のルーヴィーも音楽活動をしています。
また、ジーノ・パオリもフリウリ州のモンファルコーネ生まれながらジェノヴァのバンドからデビューしファブリツィオ・デ・アンドゥレと共にジェノヴァ派の中心人物として活躍し、年を重ねた今でもまだ元気に活動しています。
そしてジェノヴァ生まれのアントネッラ・ルッジェーロ,カルロ・マッラーレ、カルロ・ベルゴンツィ達五人で結成したマティア・バザール,そしてニュー・トロルスデ・スカルツィ兄弟ブルーノ・ラウズィ、ラッテ・エ・ミエレフランチェスコ・バッチーニ, ウンベルト・ビンディ
またルイジ・テンコもピエモンテ州、アレッサンドリアのリカルドーネに生まれてジェノヴァで育ちジーノ・パオリやファブリツィオ・デ・アンドレと親交を持つのです,他にもデリリウムとそのイヴァーノフォッサーティマリオ・パンセーリ、またアンジェロ・ブランドゥアルディもミラノ近郊のクジアーノに生まれ,その後の移転で育ちも音楽学校もジェノヴァ,そしてリッキとポーヴェリも・・・
こうしてみると,ジェノヴァを州都とするリグーリア州のサンレモで音楽祭が開かれるのも何故か納得出来るのではないでしょうか??
                                               (2002)            

70年代サンレモの主な優勝者と曲名

70−1位ーAdriano Celentano-Claudia Mori
      /Chi non lavora non fa l'amore!
    2位ーNicola Di iBari-Ricchie Poveri
      /Laprimacosabella
    3位ーSergio Endrigo-Iva Zanicchi /L'arcadiNoe'
71−1位ーNada-Nicola Di iBari
      /Il Cuore e' uno zingaro (恋のジプシー)
    2位ーRicchiePoveri /Chesara' (ケ・サラ)
    3位ーLucio Dalla−Equipe84
      /4/3/1943 (みなし児)
72−1位ーNicola Di Bari/ I giorni dell' arcobaleno
    2位ーPeppino Gagliardi /Come le viole
    3位ーNada /Il re di Denari
73−1位ーPeppino Di iCapri
     /Un grande amore e niente piu'
    2位ーPeppino Gagliardi /Come un ragazzino
    3位ーMilva /Da troppo tempo
74−1位ーIva Zanicchi
     /Ciao, cara, comestai? (さよならも云わずに)
75−1位ーGilda/ Ragazzade lSud
76−1位ーPeppino Dii Capri/Non lo faccio piu'
    2位ーWess ,Dori Ghezzi /Come stai , con chi sei
    3位ーSandro Giaccobe /Gli occhi di tua madre
77−1位ーHomo Sapiens/Bella da morir (涙の日曜日)
    2位ーCollage /Tu mi rubi anima
    3位ーSanto California /Monica
78−1位ーMatia Bazar/.....E dirsi ciao!  (チャオの一言)
    2位ーAnn Oxa /C'e una ragione
79−1位ーMino Vergnaghi /Amare
    3位ーI Camaleonti /Quell'attimo in piu'


Lucio Battisti/Emozioni


Lucio Battisti



Claudio Baglioni/e tu.....


Claudio Baglioni/Quest Piccolo Grande Amor



Fabrizio De Andre'/La Canzone di Marinella



ルーチョ・ダッラ/スーパー・ベスト



マティア・バザール/スーヴェニール



Nada/ナーダ



Francesco De Gregori/Rimmel